最近、自転車に乗れるようになった息子。
思い切って遠出してみようか?と、近所の土手の端の方まで走ってみることにした。

土手は水害を防ぐために綺麗に整備されている。道も3〜4人並んで歩けるくらいの広さがあり、アスファルトの歩道もまずまず新しい。自転車の練習には良い。土手沿いを流れる川幅も大きく、場所によっては20〜30mくらいある。

日常的にこの土手でランニングをしているが、時には漁師のような格好をした小舟を目にする。大きな野鳥も頻繁に飛んでいる。こんな身近にも自然の生態系があり、季節や時間帯によって刻々と景色が移り変わる。何度通っても飽きることはない。

上流に向かって2キロほど走ると、土手の端が近づいてくる。そこには階段があり、川岸の方へと降りられる。

その日は、ちょうどその階段の下の方から小柄な高齢の女性が登ってきた。僕たちが近づくと歩みを止め、微笑みながら声をかけてくる。階段の下らへんに鯉が集まっているから、見てみるといいよ、と。

息子と顔を見合わせ、早速階段を降りてみると、たしかにちょうど階段を降りたところに7〜8匹の鯉が集まっている。そのうちの1匹は白く、もう1匹は濃いオレンジ色。

息子が感嘆の声を上げる。

そういえば以前から鯉がたくさん泳いでいたな、と思う。特に夏の夕暮れ時、土手の上の方からでも濃い魚影が見える。時にはバシャっと音を立てて跳ねたりして、こちらを驚かせる。

にしても、今日は数が多い。そしてカラフルな鯉は見たことがない。なんでわざわざ階段の下に群がっているのだろう?
だいたい、普通は人が来たら逃げるよな?疑問を感じながら眺めていると、余計に川に住んでいる自然の鯉だとは思えなくなってくる。

人が来ると集まってくる?まるで生け簀の鯉みたいだ。誰かが放流したのかな?疑問が頭を渦巻く。

ふと、階段のあちこちに米粒が落ちていることに気が付く。なんでこんなところに?と思っていると、息子がそれを指差し、「これ、鯉にあげていい?」と目を輝かせる。
こんなの食べるもんかな?と見ていると、鯉は潜水艦みたいにゆっくりと進路を変更し、無表情のまま息子が米粒を投げた方へと近づく。そして米粒の前に移動すると、パクリと口に入れる。その動きは、まさに生簀の鯉だった。

そうか、誰かが餌付けしているのか、と思い至る。そういえばランニングをしている時に、この場所にじっと立っている人を何人か見たことがあった。鯉を眺めているのかな?と思ったものの、実は餌をあげていたのかもしれない。

後日、娘と息子ともう一度、歩いて鯉を見に来た。相変わらず6、7匹ほど集合していた。子供達がパン屑を投げ入れると、ゆっくり移動して、パクッと飲み込む。川の中の鯉達を観察していると、なかなか面白い。

しばらくみんなで鯉を眺め、帰っていると、反対の方角からあの高齢の女性が歩いてやって来た。子供達の後を追いかけながら振り返ってみると、鯉の集まっている場所に立ち、長い時間じっと川の中を覗き込んでいた。

皆んなで野生の鯉を飼っている、と想像してみる。

散歩に来て、鯉を眺めているうちにだんだんと情が湧いてくる。そのうちに、米粒やパン屑を持ってきて、餌付けするようになる。そういう人が代わる代わる訪れ、だんだん野生の生簀みたいになってしまう。

鯉を中心にして、ここに小さな輪ができている。ちょっと奇妙な光景だな、と思う。

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