よく晴れた4月13日の日曜日、息子と近所の土手に向かった。妻と娘は買い物へ。
昼食用に息子と並んで台所でおにぎりを握る。真ん中に、息子の大好きな明太子を入れて海苔で巻いた。妻がウインナーを焼き、小さなプラスチック容器に準備しておいてくれた。
おにぎりをラップで包み、タンブラーに暖かい玄米茶を入れていると、息子がお気に入りの小さなリュックを持ってきた。幼稚園の遠足のために僕がスポーツ店で買ってあげたもの。子供用とは言え、ポケットがたくさんあって、けっこう頑丈に作られている。おにぎりとタンブラーとチョコレートを入れる。
特に何も無くても、よく晴れた日に息子と朝から土手を散歩し、お弁当を食べるのは本当に気持ちが良い。子供がいなければ、1人で土手でおにぎりを食べようとは思わないかもしれない。
息子のブレイブボード(スケートボードのような玩具)の練習にしばらく付き合い、少し足が疲れたら階段でお茶を飲み、川で魚を取ろうと待ち構えている鴨やサギをじっと2人で観察した。
昼前になると、息子が土手のヨモギを一生懸命に集めるのを眺めて過ごした。ヨモギはヨモギ餅や天ぷらにするために集めるのだと言う。我が家ではよく、野草のヨモギを摘み、天ぷらにして食べる。
ヨモギ摘みに飽きると、またブレイブボードに乗り、階段でお茶を飲み、おにぎりを食べる。春の午後はいたって平和だった。
おにぎりを食べ終わると、息子がリュックに入れていた虫眼鏡を取り出す。蟻の観察をしたかったらしいが、なぜか蟻が見つからなかった。それならということで、虫眼鏡で太陽光を集め、葉っぱが焼けるのか?実験をすることになった。
幼い頃に散々やり尽くした実験である。今さらだけど、息子にしてみれば世紀の大実験だ。
周りに燃え移りそうな物がないことを確認し、風のないタイミングを待って、コンクリートの階段の上に茶色の葉っぱを置く。息子の手を握り、1箇所に光線を集める。
カメラのマニュアルフォーカスを合わせるように、2人で集中して虫眼鏡の位置を調整する。光を集め、光線が1点になったところで、動かないように注意する。
集中して1点を見つめていると、そこから細長い煙がスーッと立ち上った。葉っぱが焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
虫眼鏡を除けると、葉っぱに穴が開いている。穴が空いた箇所の周りには、黒い焦げ目。息子は感嘆の声を上げる。
「ヒハ、オコセマシタカ?」
突然、後ろで声がした。驚いて振り向くと、土手の上に自転車(本格的なスポーツバイク)に乗った白髪の欧米人のおじいさんが自転車に跨っていた。
一瞬、なにが起きたのか理解できず、思わず息子と顔を見合わせた(この人だれ??)
反射的に、「上手くいきましたよ」と答えてしまった。「スゴイ!」と嬉しそうな笑みを浮かべ、白髪の欧米人は、猛スピードで自転車を漕ぎ、走り去った。
穏やかでよく晴れた日曜日だった。理由は分からないけれど、今日この時間は僕と息子の記憶に強く刻まれるだろうな、と思った。